2015年5月25日月曜日

横顔

ある市民管弦楽団のリハーサルに、手伝いで参加した時のこと。
自分が座るトロンボーンの席の斜め前方、チェロ奏者たちの中にその横顔を見た。
なんて嬉しそうに弾くんだろう。つつましく穏やかな微笑みで。
ずっと言葉が見つからなかったけれど、やっと分かった。そう、彼女は音を慈しんでいた。

日々の生活や、やるべき仕事に煩わされるようにではなく、曲を奏でていた。
小さな声に耳を澄ませるように。
目を閉じて思い巡らせるように。

しかし考えてみると、僕にはその人の音が聞こえていなかったはずだ。
狭い練習部屋に飽和した合奏の中から、一人のチェロの音を判別できるわけがない。
それなのになぜ、琴線に触れる演奏を聞き取ったような気がしたのか。

そして、どんな顔立ちだったか実は覚えていない。目も鼻も口も、髪型も。
あの人はいったい何者だったのか。

それは音楽の横顔。
透明な水の向こうに揺らめく、遠い面影。