2012年12月13日木曜日

私もまた星座

去年の秋に「歴史とは星座」というエントリを書いた。
歴史とは、過ぎ去った沢山の出来事から何かを選択して、関連づけ、物語を描き、現在につなげたもの。その作為は星座をつくることに似ている、と。

それなら、この「私」もまた星座にすぎない。
私の過去とは、実際にあった数えきれない出来事から私が選択した物事を、私が関連づけ、私が物語り、私の現在に結びつけたものだ。
記憶、個人史、半生記。歴史そのもので、星座そのものだ。

忘れてしまったことを思い出す。
影になっていたことに光を当てる。
大きく見えていたことの大きさを疑う。
違う点と点を結んで違う形を描いてみる。
違う星座を形作り、違う人生を語る。
すると違う私が現れる。

最近、昔のことを考える。子どもの頃。学生時代。数年前。
何をしていたっけ。何を考えていたっけ。どんな私だったっけ。
何をしていたと思っていたっけ。何を考えていたと思っていたっけ。どんな私だったと思っていたっけ。
そして。違う私が現れるだろうか。

2012年4月24日火曜日

学生の頃、チラシのデザインだけをきっかけに、美大の学生演劇を見に行ったことがある。真っ白な紙の右上から左下に向かって、細い3本の弧。それぞれ離れた地点からやってきて、ゆったりとしたカーブを描き、交差して、また離れていく。
芝居のチラシにしてはミニマルな図柄に魅かれ、会場に足を運んだ。

登場人物は、ルームシェアをして暮らす20代の女性たち。彼氏と恋愛中の文学部の大学院生、鍵のかかる日記帳を持った情に厚い女の子、夢を追いかける女優の卵。親友なんだから何でも相談し合って暮らして行こうね、と誓い合う仲。

ところが、やがてお互いに秘密を抱えていることが分かってしまう。
最近彼氏が冷たいと愚痴る大学院生を本気で心配する日記帳の女の子。しかし大学院生が毎日のように彼氏にかけていたはずの電話の相手は時報で、幸せな自分を演じていただけだった。
そんな嘘に怒る女の子の日記帳の中身は、大学院生の生活のストーキング。実は同性愛者で彼女を愛していたが、それを言いだせないまま架空の彼氏に嫉妬心を燃やしていた。
そんな2人の秘密を責める女優の卵は、しかし自分の部屋に彼女達を絶対に招かない。実は女優志望というのは周囲の期待に答えようとしていただけで本心ではなく、子供の頃から他人の意見に合わせて生きてきたため自分を見失い、心の叫びを壁に殴り書きした真っ暗な部屋で膝を抱える毎日。

そんなの本当の愛じゃない、そんなの本当の自分じゃない。相手の嘘を糾弾すると、そのまま刃が自分に返ってきてしまう。かさぶたを剥がし合うようにして、その結果やっと鎧を脱ぎ捨てる事ができた3人は、最後に素直な自分を取り戻してそれぞれ本当にやりたいことを見つける。でもそれは今の共同生活の終わりを意味していた。

青臭い筋かもしれないけれど、嘘を暴き合うプロットが上手く練られ、等身大のテーマと向き合う役者達の演技も良く、とても心を動かされた。

帰りがけにチラシを取り出して気がついた。ああ、これはそういう意味だったのか。

こんなに切迫した局面でなくてもいい。友達との共同生活に限った話でもない。
どんなものであれ一つの時代を共に過ごしながら、やがてそれぞれの道へと散って行った人々、その出会いの不思議を思う時、今でも僕の頭の中にはA4サイズの白紙が現れ、数本の弧が流れて交わり、ゆっくりと広がり別れていく。

2012年3月10日土曜日

不安について/イメージの軍勢

人を、または人の集団を都合のいいように操ろうと企む場合の、安易な方法。それは「不安にさせる」こと。

どんなに強く大きなものも不安になると脆いからだ。じっとしていれば守りは堅いのに、動揺すると無駄に動き回り隙ができる。リスクの見積もりは狂い、武器は手から滑り落ち、バランスを失って自壊する。

だから草食獣の群れを襲うハイエナも、難攻不落の城を攻める知将も、海千山千の詐欺師も、正面からぶつかる前にじっくりと相手を観察し、混乱させて崩す作業から取りかかる。

逆に崩されないためには不安に支配されないことが大切。不安を感じることそれ自体は、危機を察知するためにむしろ必要な能力だけれど、単になんとなく不安だからという動機だけで行動して、上手くいった試しが無いと思う。こちらを崩そうとする誰かの意図が働いている場合はなおさら。

不安にさせられることを、「直近の未来について悪いイメージを持たされる」と言い換えてもいい。それなら良いイメージを作り出し、保持することで対抗できるかもしれない。
それは現実逃避という意味ではないし、ポジティブ思考だけで全てがうまくいくという極端な楽観論でもない。もっと基本的な原理、自ら思い描くことの方に進むこと。持ち物を思い出すこと。主導権を渡さないこと。

ふと、優れた幻視をするSF作家の小説を思い出す。
絶大なタレントを持った超能力者たちがイメージの軍勢を戦わせ、世界を作り替えていった。