学生の頃、チラシのデザインだけをきっかけに、美大の学生演劇を見に行ったことがある。真っ白な紙の右上から左下に向かって、細い3本の弧。それぞれ離れた地点からやってきて、ゆったりとしたカーブを描き、交差して、また離れていく。
芝居のチラシにしてはミニマルな図柄に魅かれ、会場に足を運んだ。
登場人物は、ルームシェアをして暮らす20代の女性たち。彼氏と恋愛中の文学部の大学院生、鍵のかかる日記帳を持った情に厚い女の子、夢を追いかける女優の卵。親友なんだから何でも相談し合って暮らして行こうね、と誓い合う仲。
ところが、やがてお互いに秘密を抱えていることが分かってしまう。
最近彼氏が冷たいと愚痴る大学院生を本気で心配する日記帳の女の子。しかし大学院生が毎日のように彼氏にかけていたはずの電話の相手は時報で、幸せな自分を演じていただけだった。
そんな嘘に怒る女の子の日記帳の中身は、大学院生の生活のストーキング。実は同性愛者で彼女を愛していたが、それを言いだせないまま架空の彼氏に嫉妬心を燃やしていた。
そんな2人の秘密を責める女優の卵は、しかし自分の部屋に彼女達を絶対に招かない。実は女優志望というのは周囲の期待に答えようとしていただけで本心ではなく、子供の頃から他人の意見に合わせて生きてきたため自分を見失い、心の叫びを壁に殴り書きした真っ暗な部屋で膝を抱える毎日。
そんなの本当の愛じゃない、そんなの本当の自分じゃない。相手の嘘を糾弾すると、そのまま刃が自分に返ってきてしまう。かさぶたを剥がし合うようにして、その結果やっと鎧を脱ぎ捨てる事ができた3人は、最後に素直な自分を取り戻してそれぞれ本当にやりたいことを見つける。でもそれは今の共同生活の終わりを意味していた。
青臭い筋かもしれないけれど、嘘を暴き合うプロットが上手く練られ、等身大のテーマと向き合う役者達の演技も良く、とても心を動かされた。
帰りがけにチラシを取り出して気がついた。ああ、これはそういう意味だったのか。
こんなに切迫した局面でなくてもいい。友達との共同生活に限った話でもない。
どんなものであれ一つの時代を共に過ごしながら、やがてそれぞれの道へと散って行った人々、その出会いの不思議を思う時、今でも僕の頭の中にはA4サイズの白紙が現れ、数本の弧が流れて交わり、ゆっくりと広がり別れていく。
0 件のコメント:
コメントを投稿